僅かな人の気配を感じて、サーフは目を覚ました。見慣れたはずの自室のベッドルームの天井…だが、それと認識するまで暫くかかった。視界がぼやけてるのはおそらく高熱の所為。
意識の浮上と共に押し寄せる鈍い頭痛に、サーフは顔をしかめた。その僅かな呼吸の乱れを感じたのか、気配の主が声をかける。
「起きたのか、サーフ」
返事を待たずにひんやりとした手のひらがサーフの額に押し付けられた。続いて首筋に。脈を確認しているのだろう。
「熱、だいぶあるな。辛いか?吐き気とかは?」
まるで医者の診察のような口調で、ヒートが問う。
緩慢に首を振ると手のひらが離れた。触れられた箇所が、ジンジンと熱が広がるように痺れている。
「吐き気がないなら、何か食べた方がいいな」
「…食欲がない」
「無理しても食わなきゃダメだ」
咎めるように自分を見下ろすヒートと目が合う。
いつもの怒ったようなぶっきらぼうな態度と似ているが、瞳がいたわりに満ちているのが分かる。理解できない悪寒に似た戦慄が、サーフを酷く落ち着かない気分にさせた。
…そういえば、ヒートは午後の講議をどうしたのだろう。普段ならまだ講議を受けている時間だ。
おまけに彼は講議の後も医科大の資料室だの、大学の図書館だのに居座っては自主勉学に励むのが日課だったはずである。
サーフの怪訝そうな視線を理解したのか、ヒートが慌てたように口を開いた。
「い…院のヤツから、お前が熱出してぶっ倒れたって聞いて…ちょっと気になったんだよっ。案の定来てみればお前はカギもかけねえで寝込んでるし…メシも食ってねえって言うし、どうせ薬も飲んでないんだろ?放っておいたら寝覚め悪いし…ってなに笑ってんだよっ」
自分に言い訳をするようなヒートの言葉が可笑しくて、自然と笑みが零れてくる。
不思議な心地よさ、安堵感。他者からこんな感情を覚えるなんて、今までの自分では考えられないことだった。
…まるで地に堕ちるような戦慄。
サーフは軽く頭を振る。
こんな感情はきっと体調が悪いからだ。
熱を出したり、苦しんでいる時、人は「誰でも良いから縋りたい」という心理が働くものだ。
そう、自分もそんな心理状態になっているだけだ―――。
「オートミールなら食えるだろ?今作ってやるから…」
傍らを離れようとするヒートの手首を、とっさに掴む。
「いらない…それより、このまま…」
「…?」
掴んだ彼の手を火照る頬へあてる。
「ちょっとだけでいいから…このままで…」
「サーフ…?」
怪訝そうな声。だがヒートは手を振り解くことはなかった。手のひらが優しく頬を撫でている。
その心地よさから、サーフは再び意識を眠りの淵へと落とした。